シカケブンコ 

日記、旅行記、漫画や絵など色々。

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AI、VR、ロボット…森美術館『未来と芸術展』がハヤカワSF文庫世界の訪れだった

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2020年1月11日、六本木の森美術館で開催されている

『未来と芸術展』に行って参りました。 

 

AI、バイオ技術、ロボット工学、AR(拡張現実)、自動運転などなど最先端のテクノロジーやそれを用いたアートや建築、デザインを紹介する展覧会です。


なお、展覧会の正式名称は


『未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命――人は明日どう生きるのか” 』

 

この展覧会のタイトルは、AIによって生成されたものなのだそうです。

そんな未来を感じさせる展示会にいざ友人三人と出発!

 

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さて、六本木の森ビルにいくならまずこれを見なきゃですね。

 

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オブジェ「巨大クモ・ママン」が歓迎してくれます。

六本木ヒルズ森タワーの正面の広場に設置された芸術作品で、高さ10メートルの巨大なクモのオブジェです。お腹の中にたくさんの卵を抱えているまさにママンなママン。

アニメ「じょしらく」でも紹介されました。

 

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六本木はバブル時代の名残を残す芸術の街でもあり、道々にアート作品があったりします。こちらは巨大な「薔薇」六本木ヒルズの愛と美のシンボルとして66プラザに林立しています。

 

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さて、展示会はビルの52階で行われているので展望台の方までエレベーターで登りました。展望台からは東京が一望できます。

 

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同時開催されている鉄道展の企画でダンボールで作った機関車が展示されていました。

企画が終わったあとは芋煮会の火種になる運命が待っていそうですが、今はこの美しい姿をフィルムに収めておきましょう。

 

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さて、ようやく奥に進むと入口が見えてきました。

拝観料は1800円。イヤホンガイドは500円です。今回はチケットのみで入場。

 

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展示室はこんな感じでいくつかの部屋を順番に移動していく形です。

最初は未来の都市についての展示でした。

 

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白い天井に白い壁、白い展示品と白で統一された展示室。

正直トイレットペーパー置いてそれっぽい説明札つけとけば人が寄ってくるんじゃないかと思いつつ作品を見ていく。

 

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さて、まず私が気に入ったのがこちら。

「NEO出島」会田誠

霞が関の上空に英語が得意なエリート階級だけが住むことができる、現代版の出島を作る計画を提示しているものです。

 

 

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開発され尽くし、土地が足りていない東京。それなら

上に作っちゃえ、あ、上に住めるのはエリートだけな!

という小池百合子都知事的な満員電車の解消案や、去年流行った「上級国民」なども皮肉ってるんじゃないかなというブラックユーモア感が堪りませんでした。

 

余談ですがこの作品を見てふとゲーム作品の

 

 ↑こちら「テイルズオブデスティニー」を思い出しました。

この作品では地上で暮らす「地上人」と、空に浮かぶ要塞で暮らす高等民とされる「天上人」というものが出てくるのでもし実現したらそんな世界に近くなるのかなあと思いました。

 

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次の展示室に行くとハードオフで「用途不明」と書かれて売ってそうな展示品がありました。概要を見てみると…

 

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「MX3Dの橋」MX3D&ヨリス・ラーマン・ラボ 

この展示品は3Dプリンタで作られたステンレス製の橋だそうで、実際に人が歩くことで内蔵されたセンサーでデータも取ることができるそうです。

 

今はまだ人の手が加わっていますがAIやロボットの発達に伴い完全に人の手なしで作れるようになることが可能になるそうです。

 

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「ムカルナスの変異」ミハエル・ハンスマイヤー 

「ムカルナス」はイスラム建築の伝統的な幾何学装飾であり、コンピューターを用いたシミュレーションにより、デザインを生み出したものとのこと。

 

1万本以上のチューブを、ロボットが一本一本異なる長さに切断し、組み合わせた作品で絶対にその精密さは人間だけでは作ることができないものですね。

 

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ただあまりにも綺麗な切り口、そして不気味の谷をも想像させる無機物感は少し怖いと感じてしまう。機械と人間の美意識の差も考えさせられる作品でした。

 

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「Invisible to Visible〜未来の自動運転〜」

Nissan Intelligent Mobility×Artプロジェクト 

VRとARを使った未来の自動運転を体験できる作品。体験の際は運転席と助手席に別れ、助手席の人はVRゴーグルをつけて運転風景とカメラに映し出された運転席の人を見ることができる。

 

一方、運転席の人はスクリーンに映し出された運転風景とARでバーチャルアバター化した助手席の人を見てお互い会話することもできる。

 

遠隔地にいる家族や友人、病院で動けない人などに擬似運転体験をさせてあげることができる一つのアトラクションみたいなものですね。

 

実際の車の自動運転ができるようになったらこんな感じでコミュニケーションできるのかなと思い、少し未来のカタチを体験することができました。

 

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「ポップローチ」 長谷川愛

こちらはインスタ映え確実の遺伝子組換えによるカラフルな食用ゴキブリです

最近話題になっている昆虫食ですが繁殖力という点を考えると意外と理にかなっているのかなあと。

 

ゴキブリの食感はエビに近いらしいですし、料理して形をなんとかすれば食料危機の解決策になりうる食品に様変わりするんじゃないかなあと思いました。

 

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「ビストロ・イン・ビトロ」ネクスト・ネイチャー・ネットワーク

人工培養により食材を生産する未来を描いたデザイン・プロジェクトだそうです。

 

培養とは細胞や組織の一部を人工的な環境下で育てることであり、ラボで牛や豚、鶏などの肉類に加え牡蠣やエビなどの魚介類も培養することで、動物を殺すことや、飼育する必要がなく、動物愛護の問題食料問題の解決という意味でも素晴らしい計画だと思いました。

 

料理の方はまだ実在しないため2028年1月から予約受け付けということになっています。

 

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「LOVOT(らぼっと)」GROOVE X(東京)

 

友人に純粋な瞳で「パパこれ買って」と言われた作品。

 

役に立たないけど愛着があるというコンセプトで作られた愛玩ロボット。

それぞれ割り振られた名前を呼ぶと反応してくれるらしく、AIによって学習もするとのこと。たしかにこれは足元にルンバをつけて家に置いときたいですね…

 

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ちなみに充電中はこのように所定の位置に自動で戻っていき、目を閉じて休むようです。うーんかわいい。

 

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 「マン・マシン」 ヴァンサン・フルニエ

労働力として用いられる事が主であるロボットが仕事をすることもなく、日常的な場面に溶け込むように存在する写真展示です。

 

私はこれを見て「映画ドラえもん のび太とロボット王国」を思い出しました。

ドラえもん自体、私はとても好きなんですがこの作品は特に好きな映画です。

この作品ではロボット王国が舞台で、人間と共存していたロボットの感情を抜き取る計画、「ロボット改造命令」が支配している王国に行われ、それにのび太たちがロボの少年「ポコ」達と共に立ち向かうお話となっています。

 

この映画では「ロボットとの共存」がひとつのテーマとなっており、恐らくこの映画とそして展示品に関しても「ロボット三大原則」で有名なハヤカワSF文庫の「われはロボット」が元ネタ、着想の根幹にあったと思われます。

 

 「われはロボット」ではロボットの存在意義やあり方、そして根本的な考え方が詰まっており、物語としても面白いです。

 

古い時代に書かれた作品ですが全然古さを感じないので、これから迫りつつあるロボットの時代を理解していくためにも是非ご一読することをオススメします。

 

 

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「SUSHI SINGULARITY」OPEN MEALS 

「スシ・シンギュラリティ」という横文字にすればなんでもかっこよくなる訳じゃねえんだぞってツッコミを入れたくなるようなネーミングの作品。

 

食がテクノロジーの進化によってどう変わるのかを考察するもので、食べ物の味をしょっぱさ、酸、苦味、甘さの4つの要素に分解し、それをデータ化したものを米粉、寒天、大豆、海藻などを使って3Dプリンターによって具現化する「未来の寿司」を提案した作品です。

 

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上の写真が未来の寿司屋。大将は3Dプリンターを操作する人になるのだろうか。

 

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そしてこちらが未来のマグロ寿司。四角い…!!

3Dプリンターでしかできない食感や網の目、幾何学模様など複雑な形を再現できるあたりデザイン要素や建築要素でも価値を競うようになってくるのだろう。

 

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これが「未来のスシ」だっ!!!

 

いやお城あるやん…イカのお城だそうです。なんだこれ。

 

このシステムが実用化されると、寿司のデータ編集や共有が可能となり、オリジナルの寿司が、世界のどこでも3Dプリンターを介して食べられるようになるそうです。まさに未来の食を提示してくれる作品ですね。

 

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「ヒューマン・スタディ#1、5 RNP」 パトリック・トレセ

こちらは椅子に座っている人の顔を5台のロボットアームがボールペンで模写していく作品です。各ロボットはそれぞれ異なる画風を学習しており、描かれたものはそれぞれ個性が出てきます。

 

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5台の個性あるロボットに描かれた作品は壁面に飾られています。

 

線はまだよろよろしていますが、遠目から見ても人とわかるくらいしっかり描かれており、将来他の分野との組み合わせでイラストレーターや漫画家もいらなくなる…そんな予感をぽちゃん…と心に落とす、少し寒気がした作品でした。

 

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「わたしは人類」 やくしまるえつこ

「人類滅亡後の音楽」がコンセプトとなる、新しい音楽の形を探る作品。展示にはやくしまるさんの曲が流れ、ケースには微生物が入っていました。

 

この作品は25億年前から生息する微生物のシネココッカスの塩基配列を元に楽曲を制作し、記憶媒体にも微生物のDNAを使用しているとのこと。

 

 

正直一回説明見ただけじゃなんのこっちゃってなりまして、何回か読んでやっと

 

”微生物の遺伝情報を使って音楽を作って、それを微生物を媒体にして保存してる”

 

っていう大まかな概要は理解したんですがそれにしてもやってることのスケールが大きいというか…結局どうやってるのっていう部分は全く理解できないので、逆にそんなところが印象に残りました。

 

 

作品の詳細に関しては下記のやくしまるえつこさんの説明を聞くとより理解が深まりました↓

wired.jp

 

やくしまるえつこさんはこちらの一時期話題になった「廻るピングドラム

こちらの作品の主題歌も担当していました。この作品で印象的な言葉の一つ。

 

生存戦略

 

やくしまるさんはその繋がりもあるのか、自分の死後もいかにして音楽を残していくかをしっかりと考えており、根っからのクリエイターであるんだなと強く感銘を受けました。

 

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「エンメッシュメント(生命と愛のもつれ)」エイミー・カール

 こちらは3Dプリンタで制作された心臓。こちら、再現だけでなく従来の心臓機能を改善されたものだそうで要するに「よりよい心臓」ということになります。

 

3Dプリンタの医療分野での応用の期待を高めてくれる作品ですが同時に倫理観も問われてくることになりそうだな、と思う作品でした。

 

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シュガーベイブ ディムート・シュトレーべ 

 

画家のゴッホが生前に自ら切り落としたとされる左耳を遺伝子情報から再現したぜ!

 

…というある意味今回の展示で一番イカれてんじゃねえかと思った作品。

 

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ゴッホの父系・母系両方の末裔の方から細胞やDNAを提供してもらい、タンパク質による彫刻で再現したそうです。バイオ・アトリエというジャンルを象徴する作品でありクローンのようなものだそう。

 

医療技術への応用が効きそうですがこれはゴッホの左耳を生き返らせた」ということとも考えられ、これとAI美空ひばりのような技術を組み合わせたら本当に

 

「死人を生き返らせる」

 

という生命の道理に反する技術が本当に実現するのではないか、もしできたとしたらそういう問題とも向き合っていかなくてはならない。

 

有名なハヤカワSF文庫の作品「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」のように生命に対する考え方を今一度考え直す、もうそんな時代に差し掛かりつつあるのでしょう。

 

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「末期医療ロボット」 ダン・K・チェン

こちらは人間の死をロボットが看取るためのベットで、死期が迫った患者はこのベッドの上でロボットに腕をさすられ、

 

「ご家族、友人が来られず残念ですが、快適な死をお迎えください」

 

と声をかけられながら静かに一人っきりで他界する…そんな映像が流れていました。

ビジュアル的には他の作品と比べ地味ですが、個人的には一番身近で現実的な感じがした作品でした。

 

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社会問題となっている孤独死、しかしロボットとともに在れば孤独ではないのではないだろうか。そんな問いかけが聞こえてくるようです。

 

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「ズーム・パビリオン」

ラファエル・ロサノ=へメル&クシュシトフ・ウディチコ 

こちらは顔認識のセンサーと監視カメラを使い、 部屋に入ると室内の鑑賞者が検出され、カメラが来場者を捉えて壁面に映し出します。

それが記録されるとともに、近くにいる人同士をコンピュータが判断し、マッチングを行い線で繋ぐ…そんな作品。


常に監視されている現代において、人間はどう行動すべきか、知らぬ間にプライバシーを侵害されていることを意識させられます。

 

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実際中国ではこのような感じにもうなっているそうですし、アメリカでは自動で買い物を検出してくれる「Amazon GO」などもあるので全く他人事じゃなく、もうそんな世界なんですよね。

 

ハヤカワepi文庫 ジョージ・オーウェルの有名なディストピア小説作品「1984」でも24時間政府の監視体制におかれている舞台が出てきますがそんな世界に生きて果たして人は幸せになれるのか、そんな事を感じさせる作品でした。

 

 

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「深い瞑想:60分で見る、ほとんど「すべて」の略史」

メモ・アクテン 

この作品は巨大なスクリーンに色鮮やかな花やきれいな景色が映し出されています。

このどれもが既視感がありつつも実在しない風景。これらは写真共有サイトの「Flickr」で「全て(everything)」タグがついた写真を機械学習させ、その学習に基づいて人工知能が自動生成したものなんだそうです。

 

作者曰く「ここに映っているものは、私が見せようとしているものではなくて、みなさんが見たいものが映っている」とのこと。

 

人類が生成し続けるビッグデータが皆が望む、新しい風景を作り出す。カメラマンが不要とされる未来に近づいているのか、それとも…

 

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 「データ・モノリス アウチ

最後の部屋には真っ暗な部屋に高さ5mの直方体の物体があり、その4面に映像が映されています。

 

これはトルコのギョベクリ・テペ遺跡にある紀元前9600~7000年前の石柱に彫られた図像や情報をAIにより解析した紋様や周囲の環境を抽象化した図像にして映し出している作品。


有名なハヤカワSF文庫作品であり、SF映画の大作「2001年宇宙の旅」に登場したモノリスを彷彿させる作品であり、この意味のわからなさが不思議な魅力を見る人に与えます。

 

 

 

 

最後に紅白にも出場した「AI×美空ひばり」の新曲『あれから』を見て会場を出ました。あれは言葉にならないほど凄い。今は凄いしか言えないけどそれが当たり前になる社会がいずれ来ることを予感させた。それほどまでにすごい技術の結晶であった。

 

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さて、刺激的な最先端の作品をたくさん見てきたので、ここは精神の安定を図るためにブームが去りつつあるタピオカを飲んで釣り合いをとりましょうおいしい。

 

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そんなこんなで『未来と芸術展』いかがだったでしょうか。

 

様々なものを見て様々なことを考えさせられる展示会でしたが、願わくばより良い方向へとこれらの技術が活かされていくことを望みます。それでは最後、この日の夕食を食べた小料理屋のお通しの写真で締めといたします。それでは。

 

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